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第35回全国中学生人権作文コンテスト 法務省人権擁護局長賞 受賞

第35回全国中学生人権作文コンテストにおいて、3年 梶原里恩さんの作品「ホームの彼女」が、宮城県大会の最優秀賞に輝き、中央審査に進み、見事、法務省人権擁護局長賞に選ばれました。12月4日には、仙台福祉プラザで表彰式が行われ、梶原さんは、受賞作品を堂々と発表しました。受賞作品は、こちらです。

  

「ホームの彼女」  宮城県古川黎明中学校  三年 梶原里恩

 青葉茂る、五月の日曜の夕方だった。友人と仙台に遊びに出かけた私は、駅のホームで帰りの電車を待っていた。ホームには、私と同じ年ぐらいの若者達、子どもづれの家族、和服を着た品のよいお年寄りなど、家路を急ぐ人々で混雑していた。
 その雑踏の中に、私は、ひときわ目立つ一人の女性を見つけた。背が高い、黒い肌をした外国の方だった。彼女は、電車の発着時刻を示す電光掲示版と、行き交う人々を交互に見ながら右往左往していた。遠目に見ても、困惑のシグナルを発しているのは明らかだった。しかし、行き交う人々の中で、彼女のことを気にかける人はいない。よく見ると、話しかけられないように、顔を背けて彼女のそばを通り過ぎる人や、彼女を避けてわざと大回りする人までいた。その光景に、胸がチクッとしたが、彼女に声をかける勇気がなかった私は、待っていた電車が到着したのを口実にして、電車に乗り込んだ。
 電車の出発までは、まだ時間があった。声をかけられないことに後ろめたさを感じていた私は、ホームの彼女を見つめていた。すると、彼女の横を通り過ぎた人に、彼女が話しかけた直後だった。彼女の眉間のしわがより一層深くなり、困惑にゆがんだ表情になった。すかさず、隣にいた友人が、「あの外国の人、話しかけた男の人に無視されちゃったね。」と言った。その言葉を聞いた時、胸の奥底にしまっておいた嫌な記憶が蘇ってきた。
昨年の秋、私は、町が主催する国際交流事業に参加し、アメリカに渡った。初めての海外での生活は、見るもの全てが新鮮で毎日が充実していた。しかし、アメリカでの生活にも慣れ始めた頃、その出来事は起きた。
 夕食を買おうと、ファストフード店に行った。店は混雑していて、長い注文の列に私は一人で並んだ。前も後ろもアメリカの人々に挟まれ、ちょっと緊張しながら、順番を待った。ようやく私の順番になり、注文を伝えようとした時、店員の表情が、それまでの笑顔から不機嫌なものに変わった。その変化に戸惑いながらも、私は英語で注文を伝えた。すると、その店員は、わざと大きな声で何度も注文を繰り返して聞いてくる。何とか注文できたものの、注文した食べ物は、その店員によって、私の前に放り投げられたのだ。
 その態度は、間違いなく、アメリカ人ではない私を差別し、馬鹿にしたものだった。私は、悲しさと悔しさで、その場から動けなくなった。さらに、私の心をさらに深く深くえぐったことがあった。それは、周囲の人々の反応だった。注文の列には、たくさんの人がいたのに、店員の態度を注意する人も、私に声をかけてくれる人も、誰一人としていなかったのだ。それは、まるで、私という人間が、その場にいないかのような冷たい反応だった。
 その出来事を思い出した私は、友達を残して、すぐに電車を降り、彼女のもとに向かった。彼女がどんな思いでいるのか、私には痛いほどよくわかったからだ。
 彼女の側に行った私は、拙い英語で、「お困りですか。」と話しかけた。すると、彼女の顔がぱっと明るくなり、どの電車に乗れば、目的の場所に行けるのか分からず困っていたことを話してくれた。私は、単語をつなぎ合わせ、どの電車に乗ればよいかを彼女に伝えた。彼女は、安心した顔になり、日本語で、「ありがとう」と言ってくれた。その言葉は、たどたどしかったが、私の心を温かいぬくもりでいっぱいにした。そのぬくもりは、アメリカでの、あの嫌な冷たい記憶を忘れさせてくれるものだった。勇気を出し、彼女に声をかけて本当によかった、と私は思った。
 私達は、周囲に困っている人がいても、何も見えないふり、聞こえないふりをしてしまうことがある。その態度は、誰にも迷惑をかけていないように見える。けれども、その無関心な態度が、人の心をよりいっそう深くえぐることを、二つの経験から私は思い知った。
 しかし、それは、差別に限ったことではない。私達中学生の間のいじめから、国同士の争いごとまで、同じ事が言えるのではないだろうか。無関心を装う態度が、いじめ、差別、争いごとを、より悪化させ、自ら生命を絶ったり、他人の生命を奪ったりする、悲惨な結果につながることを、私達は知らなければならないのではないだろうか。
 そして、そういう悲惨なことが、これ以上起きる前に、無関心でいることを、私達は、やめなければならない。困っていたり、助けを求めている人がいたら、自分から声をかけ、手を貸すことを忘れてはならない。それが、いじめ、差別、紛争を、この世界から無くす大きな力に変わっていくと私は信じたい。
 ホームの彼女と出会って以来、私は、無関心にならないよう気をつけて生活している。正直、くじけそうな時もある。そんな時は、心の中でこう繰り返し、前へと踏み出す。
 「無関心なままでは、何も変わらない。」と。