校長から生徒の皆さんへ!「挑戦する読書」ー第3回ー

宮城県においても非常事態宣言が解除され,長かった学校の臨時休業にも光が見えてきました。来週は分散登校ではありますが,ようやく生徒の皆さんと会えることになりました。短時間ではありますが,18日(月)から20日(水)まで,まずは中学校と高校が午前午後に分かれて登校することになります。生徒職員お互いに,感染予防に十分留意し,6月1日の授業再開に向けての準備をしたいと思います。先生方も笑顔いっぱいです。

 さて「挑戦する読書」第3回です。今回は戯曲(ぎきょく)です。平たくいえば,お芝居の台本ですね。仙台一高出身で仙台文学館初代館長さんとしても有名な,劇作家です。                      

 井上ひさし 『雨』 新潮文庫

 私はお芝居が好きです。理由の一つは,こんなことを言うと演劇人から叱られるかもしれませんが,役者さんを生(なま)で見られること。芝居の面白さと,旬の役者さんを同時に味わえるという点で,井上ひさしの劇団「こまつ座」の芝居を多く観劇しています。中でも今回紹介する「雨」は,およそ10年ほど前に東京にでかけ,そのストーリーのすばらしさ,どんでん返しの結末に驚き,今でも印象に残っている作品です。見終わってから,この本を何度か手にとって読み返したほどです。(東京まで出かけたのは,主役の市川亀治郎(今の猿之助)と,永作博美を生で見たかったということなんですが・・・)

 昨年,本校に来校し,大講義室で夏目漱石「こころ」について講演され,引き続いて図書館で芥川龍之介「羅生門」について授業して下さった小森陽一先生を,皆さん覚えているでしょうか。新潮文庫を手に取ってみると,実は,解説を書いていらっしゃるのが小森先生でした。先生の解説の冒頭を紹介すると・・・

 「江戸の金物拾いの徳(とく)が,外見がそっくりだと言われて,羽前国平畠藩の紅花問屋の当主である紅屋喜左衛門に成りすまそうとして,逆に仕掛けられていた罠にはめられてしまうのが『雨』の物語です。」

 金物拾いという貧乏な境遇の徳が,裕福な紅花問屋(舞台は井上ひさしの生まれ故郷山形です)の主人に仕立て上げられ,自分もその気になって江戸の言葉を捨て,金物拾いの習性も必死で直して,本来の自分を次々と消していきます。ところがその努力が,最後になって仇となってしまうのです。実は平畠藩の財政を救うために紅花の凶作として幕府を欺いていたことがばれて,その責めを喜左衛門一人にかぶせてしまおうとのたくらみだったのですが,別人であることを証明しようとすると・・・

 戯曲というとなかなか手にすることが少ないと思います。しかしながら井上ひさしの作品は読み応えがあり,読み進めるうちに作品世界に引き込まれていくのです。この『雨』はおすすめです。     

                                     令和2年5月15日
                                      校長 小川 典昭