校長室から皆様へ

古川黎明中学校 校長  佐藤 浩之 

校長室から皆様へ

令和3年度古川黎明中学校入学式 式辞

 例年より速い足取りで歩みもを進めてきた桜前線も、ここ大崎の地に到着し、さわやかな春の風がそよぐ今日の佳き日、令和3年度宮城県古川黎明中学校入学式を挙行できますことは、すべての教職員にとってこの上ない喜びであります。本来であれば、たくさんの来賓の方々をお呼びし、盛大に入学をお祝いするべきところですが、今般の状況を鑑み、このような入学式にせざるを得ませんこと、校長として残念であると同時に、大変申し訳なく思っております。

 さて、ただいま中学校105名の呼名を行いました。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。皆さんの入学を心から歓迎します。今日の佳き日を迎えることができたのは、皆さんの努力はもちろんですが、皆さんを支え励ましてくださった方々がいたからです。自分自身の頑張りを褒めると共に、感謝の気持ちを忘れずにいてください。

 本校は、大正9年に古川高等女学校として開校しました。昭和23年に宮城県古川女子高等学校となり、大崎地区の教育の拠点として各方面で活躍する優秀な人材を世に送ってきました。その後、平成17年4月より男女共学となり、県内初の併設型中高一貫教育校である「古川黎明中学校・高等学校」が誕生しました。昨年度、100周年記念式典を行い、今年度からは、次の100年に向けて、新たなスタートを切っています。

 それでは、中学校生活の出発に当たり、新入生の皆さんに大切なことを大きく2つ話します。
 まず、1つ目は、「目標を高く持ち、何に対しても誠実に、ひたむきに、努力を続けてほしい」ということです。このことを、黎明中学校では、「尚志(しょうし)」「至誠(しせい)」「精励(せいれい)」という3つの校訓として大切にしています。夢や希望を実現するには、日々の努力の積み重ねが必要です。これからの中学校生活の中で、困ってしまうことやつまづくこともあるでしょう。それでも、決して目標を諦めることなく、自分自身を信じ、力強く乗り越えていってほしいと思います。また、本校は、令和元年度より、「スーパーサイエンスハイスクール2期目」の指定を受け、中学校でも「自分を見つめる、自分を広げる、自分を深める」ことを目指し、探究活動を行っています。様々な活動をつうじて、豊かな創造性を磨き、3年後の卒業の日には、ここにいる全員で、「黎明中学校に入って良かった」と思えるような3年間にして下さい。

 2つ目は、「自分の優しい思いを形にして表現してほしい」ということです。もしかすると、はっきりした記憶は無いかも知れませんが、今から10年前に「東日本大震災」という大きな地震があり、たくさんの人が犠牲になりました。その際、ACジャパンのCMで宮澤章二さんの『行為の意味』という詩の一節が盛んに流れていました。一部分を紹介します。
「<こころ>はだれにも見えないけれど <こころづかい>は見えるのだ <思い>は見えないけれど <思いやり>はだれにでも見える」
今、ここには、様々な地域の様々な小学校から105名の仲間が集まっています。一人一人の顔が違うように、性格や考え方も違います。人は、ややもすると自分と違う者を排除し、自分の考えを強引に押しとおそうとしたくなります。場合によっては、それが大きなトラブルになることもあります。皆さんの中には、優しい心や思いがたくさん詰まっています。是非、その優しい心や思いを形にして表現して下さい。そして、自分と違う他の人の存在を認め、その人を黎明中学校の仲間として尊重し、力を合わせて日々の生活を送ってください。とにかく,焦らず,分からないことは先生や上級生に聞いて,黎明中学校に慣れてください。

 保護者の皆様に申し上げます。改めまして、お子様のご入学、誠におめでとうございます。元気に入学式を迎えた姿を見て、感無量のことと思います。大切なお子様を今日からお預かりすることになりますが、教育には、何と言っても御家庭の協力が一番大切だと考えております。我が子はもちろんですが、新たなスターを切るすべての新入生を我が子と同じと思い、どうか御支援・御協力くださいますようお願い申し上げます。

 以上、はなはだ簡単ではございますが式辞といたします。

    令和3年4月8日

             宮城県古川黎明中学校・高等学校  校長 佐藤浩之

校長から生徒の皆さんへ!「挑戦する読書」ー第10回ー

    生徒の皆さんは宮城県美術館に足を運んだことがありますか。いま老朽化が問題となって移転問題が議論されているのを知っていますか。そして宮城県美術館が,日本でも名のあるコレクションを有していることを知っていますか。
 その名を「洲之内(すのうち)コレクション」といいます。作家の洲之内徹(とおる)が個人で収集した美術品で,油彩画,水彩,素描,版画や彫刻など全部で146点だそうですが,本人が亡くなった後,散逸の危機もあったそうなのですが,周囲の努力の結果、宮城県美術館にそっくりそのまま収蔵されました。
 洲之内コレクションが評価されているのは,洲之内独自の直感で「買えなければ盗んでも自分のものにしたくなる絵」を収集し,それによって再評価された画家たちが多くいたことです。個人のコレクションが一括して美術館に収蔵されることも稀なのだそうです。また,洲之内は『芸術新潮』という有名な美術雑誌に,「きまぐれ美術館」を連載し,コレクション作家の魅力について発信し続けました。

洲之内 徹『洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵』求龍堂

                          
 今回,皆さんに紹介するこの本は,実際の絵を見ながら洲之内のが連載した文章を読むというスタイルになっており,洲之内本人の審美眼,そして彼の直感を感じることができます。洲之内コレクションを収蔵した宮城県美術館では,人気の高い作品を中心に常設展示をしています。私が好きな作品は,全体が青色で覆われ,美しい女性が頭に魚を載せた海老原喜之助の「ポアソニエール」という作品です。もしかすると皆さんの中には「あ~これ見たことある!」という猫の絵を見つける人がいるかもしれません。長谷川潾二郎の「猫」です。床が赤で,画面いっぱいに猫が寝ている絵ですが,特徴はひげが片方しか描かれていない点です。以下は「猫」に添えられた洲之内の文章です。魅力的なエピソード。見てみたくなりますよね。

 「猫」の絵だけは,6年前に完成していた。完成していると思ったので,私は譲ってくださいと頼んだ。すると長谷川さんは,まだ髭がかいていないからお渡しできませんと言った。言われてよく見ると,なるほど髭がない。「ではちょっと髭をかいてください」と私は重ねて頼んだ。すると長谷川さんはまたかぶりを横に振って,猫が大人しく坐っていてくれないと描けない,それに猫は球のように丸くなるし,夏はだらりと長く伸びてしまって,こういう格好で寝るのは年に2回,春と秋だけで,それまで待ってくれと,いうのであった。

 続きを含めて,是非手にとって読んで見て,そして県美術館に足を運んでみてください。

                        令和2年7月7日
                         校長 小川 典昭

校長から生徒の皆さんへ!「挑戦する読書」ー第9回ー

 「挑戦する読書」第9回は,まさに皆さんに挑戦して欲しい本,樋口一葉の「大つごもり」です。一葉といえば5,000円札の肖像で有名ですが,実際に作品を手にした人は少ないのではないでしょうか。その理由は,作品としては短編が多いのですが,何と言っても文体がほとんど古典といってもいいくらい難解になってしまっているからだと思います。明治時代に書かれた小説ですので,会話の部分は皆さんがいま読んでも内容を理解できるのですが,地の文は文語体です。作品に出てくる言葉やもの自体も,解説を読まないとぴんとこないことが予想されます。
 ではなぜ皆さんに紹介するのかというと,作品自体に魅力があるんです!一葉の作品は恋愛ものが多く,かつ悲しい話なのですが,読み終わって心にじーんとくるものばかり。
私は樋口一葉の作品が大好きで,東京の樋口一葉記念館には何度も足を運んでいます。今回皆さんに紹介するのは「現代語訳」です。この本は現代語訳が大胆すぎるきらいはありますが,ストーリーを頭に入れてから原文にあたってもらえればと思います。実は一葉の作品は音読するととっても調子がいいんです。何度も声に出すと,原文のリズムが心地よくなってきます。おすすめです。

  現代語訳 樋口一葉 『大つごもり』 河出書房新社(島田雅彦:訳)

 「大つごもり」のあらすじです。主人公は「お峰(おみね)」。女中として働いています。奉公先はお金持ちなのですが,その息子の石之助がお金を湯水のように遊びに使う放蕩(ほうとう)息子です。あるときお峰は唯一の血縁である伯父(お峰は両親を早くに亡くしています)が病で倒れます。お峰は,何とか休みをもらって伯父のところへ戻ります。すると伯父は,借金の利子を年内に払わないと暮らしていけないから,奉公先から「2円」を借りてもらえないかとお峰にお願いします。
 奉公先の奥さんは大変厳しい人で,借金を申し出てからずっと知らんぷり。お峰が話を切り出しても素知らぬ顔です。そんな時に伯父の8つになる息子がお峰のところにお金をとりに来てしまいます。お峰は自分はどうなってもいいと,引き出しから2円を引き抜いて渡してしまうのです。
 ここからラストシーンまでは内緒です。でもキーマンは放蕩息子の石之助です。
 タイトルの「大つごもり」の意味は大晦日(おおみそか)です。

                        令和2年6月29日
                         校長 小川 典昭

校長から生徒の皆さんへ!「挑戦する読書」ー第8回ー

 「挑戦する読書」も第8回となりました。学校休業が長引き,生徒の皆さんがこの時期だからこそじっくり時間をかけ取り組んで欲しい本を紹介しようと思い立って,この連載を始めました。「挑戦する」というタイトルは,簡単にすらすらと読める本ではなく,黎明中学校・黎明高等学校に入学したのだから,難しくても手にとって欲しい,読破して欲しいという意味を込めました。

 昨年,読書週間を前に,全校集会で岩波文庫全7巻,アレクサンドル・デュマの「モンテクリスト伯」を紹介しました。エドモン・ダンテスが無実の罪で長い年月投獄され,脱獄してお金持ちになり,モンテクリスト伯爵を名乗って自分を陥れた人々に復讐する物語です。私は「ニュースステーション」でキャスターを務めていた久米宏さんが,この作品を紹介され,夢中で7冊を読破した話に触発されました。読み始めるとどんどん作品世界に引き込まれていきます。読んでいない生徒の皆さんには是非この機会に手にとって欲しい作品です。

 A・デュマ「モンテクリスト伯」第1巻~第7巻 岩波文庫

 さてここからが今回の作品紹介です。みなさんはこれまで本を読みなさいと,様々な機会にお話しされてきたことと思います。なぜ本を読まなくてはならないのか!本を読むことでどんな力がついてくるのか!その明確な答えを知っていますか。私は国語の教員ですのでその答えは私なりに生徒たちに話してきたつもりでしたが,この本を読んで,その答えが明確になりました。答えはここでは明かしませんが,この本では,小さい頃に良質の絵本に触れることで,読書世界がどんどん広がっていくことを紹介します。絵本の好きな生徒にはこれも読んでみよう,あれも・・・と思わせてくれる,魅力的な絵本紹介本にもなっています。今回は難解な本ではありません。なるほどそうだよね!と頷きながら読んでいくことになりそうです。

 脇 明子(わき あきこ)「読む力は生きる力」 岩波書店

 筆者は,出版当時,ノートルダム清心女子大学教授で,幼稚園や小学校の先生を志す学生たちが「本を読めない」と訴えることが多くなり,危機感を感じるようになったことが出版の契機だったようです。将来,同じような職業を志す生徒は必読です。

    <この本の帯に記されている文章を紹介します。>
 「これは,生きる歓びを子どもたちに伝えるための読書論。子どもと子どもの本の世界への,たしかな道しるべ。子どもにかかわって生きる人への激励の書です。」

                                                                                     

                                           令和2年6月19日

                                            校長 小川 典昭

校長から生徒の皆さんへ!「挑戦する読書」ー第7回ー

    挑戦する読書第7回も前回に続いて伝記です。明治初期,荻野吟子(おぎのぎんこ)という日本初の女医となった人物の物語です。

 渡辺 淳一『 花埋み(はなうづみ)』 集英社文庫

 明治維新まもない頃,農家に嫁いだ「ぎん(本名)」は病を得て離縁され,実家に戻ります。その病がもとで女医になろうと決意します。当時,女性は医学の世界に入門さえできませんでした。学問を志すことは難しく,医者は男性の仕事とされていたのです。その状況をいかにして乗り越え,日本初の女医が誕生したのか・・・
 
 古川女子高校看護科の歴史を受け継ぐ本校にあって,看護系の大学・専門学校に進学する生徒は今年も多いと思います。その生徒たちには是非一読をお勧めします。進路先が医療看護系でなくとも,女性に対する偏見との闘いに打ち克ち,明治18年,35歳にして念願の政府公認の医者として,産婦人科を開業した信念のひと,荻野ぎん63年の一生を読んで欲しいと思います。作家,渡辺淳一の名作です。                                                         令和2年6月12日
                           校長 小川 典昭